小児特発性間質性肺炎は、診断・治療において様々な問題を抱えている疾患です。日本小児呼吸器疾患学会薬事委員会では、本症に対する治療薬として欧米では頻用されているにもかかわらず、わが国では個人輸入で適応外使用されているヒドロキシクロロキンの問題に取り組んできました。平成17-19年に、クロロキンの使用実態を把握するために全国調査を実施しました。皆様のご協力で、クロロキン使用例を8施設11例把握することができました。第40回の本学会で報告致しました通り、承認取り消しの原因となった網膜症の報告は1例もないという貴重な結果が得られました。一方でこの調査には、診断の信頼性が確保されていない、有効性の評価が客観的でないなどの問題があります。またクロロキン再承認のためには、さらに使用症例数を増やす必要があると考えています。
そこで、症例登録システムを構築し、前向きに症例を収集する方法を検討しました。具体的には登録基準(表1)を満たした新規症例を登録し、その後1年ごとに経過を確認し、解析していきたいと考えています。前回の調査の反省から、海外からの報告を参考に重症度スコア・効果判定基準(表2)も作成しました。システム運用期間は平成22年4月からの5年間を設定していますが、その先にも継続できるようなシステムに改善していきたいと考えています。
登録基準を満たす症例の診療に当たられました先生方におかれましては、ぜひとも本システムへの登録をご検討いただければ幸です。まずは、担当の肥沼までご連絡をe-mail(jspp.iip2010@gmail.com)で頂きますようお願い申し上げます。
表1 症例登録基準
表2 参考資料(重症度スコア・効果判定基準)
平成22年2月
日本小児呼吸器疾患学会 運営委員長
川﨑一輝 (国立成育医療センター 呼吸器科)
日本小児呼吸器疾患学会 薬事委員会委員長
井上 壽茂 (住友病院 小児科)
同 委員
肥沼 悟郎 (慶応義塾大学病院 小児科)
表1 小児特発性間質性肺炎診断 小児特発性間質性肺炎診断(登録)基準(2009.02案)
発症時年齢が15歳未満で、以下の3項目を満たし、除外項目がないもの
1)2週間以上持続する多呼吸・低酸素血症
症状の持続期間は治療の有無を問わずに判定する
治療の漸減・中止により症状が再発した場合には、発症時から2週間以上を経過していればよい
低酸素血症は動脈血液ガス(PaO2 60torr未満)で診断することが望ましい。やむをえない場合にはSpO2 90%未満で代用してもよい
2)胸部画像検査(単純X線写真・CT)でびまん性間質性陰影
3)血清マーカー(KL-6, Sp-A, Sp-D)いずれか1つ以上の上昇
KL-6の小児での基準値は83.7-249.9IU/mlと報告されている
高瀬真人, 今井丈英, 向後俊昭:正常新生児および非呼吸器疾患小児における血清KL-6値.
日本小児呼吸器疾患学会雑誌10:99-104, 1999
Sp-A, Sp-Dの小児での基準値はKanekoらの報告を参考にする。
Kaneko K, Shimizu H, Ogawa Y:Pulmonary surfactant protein A in sera in childhood.
Am J Respitr Crit Care Med 153:A210. 1996
Kaneko K, Shimizu H, Ogawa Y:Pulmonary surfactant protein D in sera in childhood.
Am J Respitr Crit Care Med 154:A210. 1997
除外項目
心疾患・感染症・免疫不全・膠原病・重篤な嚥下機能障害
新生児慢性肺疾患(CLD)・新生児呼吸窮迫症候群・嚢胞性肺線維症・薬剤性間質性肺炎
びまん性間質性陰影をきたしうる他の肺疾患(肺胞蛋白症、肺胞微石症など)
参考項目
・症状
以下の症状・身体所見を呈することがある
咳嗽、喘鳴、呼吸困難
哺乳量低下・体重増加不良
運動能低下・易疲労感
ばち指
・血液検査
血液ガス
動脈血液ガス分析で低酸素血症の程度を評価する
通常、二酸化炭素の貯留は認めない
末梢血
本症に特異的な所見はないが、白血球増多を認めることが多い
LDH
上昇することが多い
・気管支鏡、気管支肺胞洗浄
肺胞蛋白症との鑑別、感染症の否定のために有用である
可能であれば、肺サーファクタントの分析も行う
・肺生検
診断のためには実施することが好ましい(確定診断は肺生検によるしかない)。
可能であれば、肺サーファクタントの染色、電子顕微鏡検査も行う
・遺伝子検査
surfactant protein-C遺伝子、ABCA3遺伝子の異常が発症に関与しているとの報告がある
・除外診断
・心疾患
心臓超音波検査 先天性心疾患、とくに肺静脈還流異常を鑑別する
心電図 肺高血圧・右心不全の有無を確認する
・感染症
間質性肺炎をきたす既知の感染症を鑑別する
真菌やPneumocystis jirovecii の感染症ではβグルカンの上昇が参考になる
喀痰の採取が困難な症例では、胃液の所見が参考になる
・免疫不全
免疫不全を疑わせる既往歴・家族歴の有無を確認する
白血球数(リンパ球数)、免疫グロブリン、細胞表面マーカー(CD3/4/8/19)を確認する
・膠原病
膠原病を疑わせる症状の有無を確認する
赤血球沈降速度、抗核抗体、検尿などを提出する
・嚥下機能障害、胃食道逆流症
上部消化管造影などで、嚥下機能障害・胃食道逆流症の有無を確認する
経口摂取の中止や経管栄養などで症状が改善すれば、本症への関与が濃厚である
多呼吸のために、二次的に嚥下機能が障害されたり、胃食道逆流をきたすこと
がありうる。したがって、間質性肺炎の原因か結果かは慎重に判断する。
・薬剤性
間質性肺炎をきたしうる薬剤の使用歴を確認する
参考資料(重症度スコア・効果判定)
1)小児特発性間質性肺炎 重症度スコア
スコア | 症状 | 低酸素血症 活動時 | 低酸素血症 安静時 | 肺高血圧 |
1 | なし | なし | なし | なし |
2 | あり | なし | なし | なし |
3 | あり | あり | なし | なし |
4 | あり | あり | あり | なし |
5 | あり | あり | あり | あり |
2)効果判定基準
効果判定は1か月以上継続した治療法について行うことを原則とする。
改善が明らかで速やかに減量・中止を行えた場合には、1か月未満の治療でも有効と判断してよい。
併用療法開始後に改善した場合、追加した薬剤を有効とするか、併用療法で有効とするかは主治医の判断による。
有効
臨床的に明らかな改善傾向を示したもの
例)
治療中止後も、3か月以上再発なし
多呼吸が改善
酸素必要量の明らかな減少
安静時のSpO2が4%以上改善
一部有効
症状の増悪をとめられた(治療の継続が必要な)もの
例)
酸素必要量の増加傾向が止められた
明らかな酸素化の改善はないが、その他の症状が改善(咳嗽発作が減少、喘鳴が軽減、乳児では体重増加が改善など)した
無効
症状が増悪したもの
判定不能
1か月以上の治療期間がないもの